大富豪のお屋敷でしょう。
重厚なインテリアの大広間で、客として訪れた黒革ブーツの男性とその家の主がにこやかに話をしています。まるでお城のように綺麗に磨かれた室内を訪れた人々は、誰もが感嘆の声をあげます。
その日もそうでした。なんと素晴らしいお庭にお屋敷でしょう!!と明るい声が響き渡ります。
ところが場面が変わり、主が大声で怒鳴っています。カメラは二人を捉えました。
洒落たブーツを履いた客の男は丁寧に頭を下げたかと思うと、「お嬢さんの命は大切にお預かりします。」とニヤリと笑い馬車で戻っていきました。
「なんということだ!!私の大切なジュリア、あいつがジュリアを人質にしたと言うのだ。金だ、今すぐ金を用意しろ~!!」
母親と幼い男の子が驚いています。
先ほどの黒革ブーツの男がこの家の牧場と金銭を娘の命と引き換えに要求してきたのです。
本来なら、父親の仲間や有力者が直ぐに協力してくれるのですが、どうやら国はどこかと戦争中らしく人手が全く足りません。
父親は、娘の命には代えられないと牧場と農具、馬、牧草、ブドウ園などもすべてを男に渡しました。言われた通りの金額も用意して、それも差し出しました。
父親「これで、娘を返してくれるんだよな?娘に早く会わせてくれ。妻は憔悴してこのままでは命も危ない。」
ブーツの男「それは、大変だ。早く娘さんをあなたの元へとお連れしなくては。だが生憎私が欲しいのはこれだけでは無いんだ。あなた達が住んでいるこの家屋敷も条件の中に入っている。どうだね?牧場も手放し畑も手放したあなた方にはもうこの家屋敷を管理する財力も、力もあるまい。娘さんが泣いているぞ、さあどうするんだ??」
財産を全て奪われ、使用人も雇えないと理解した妻は幼い弟の手を取り、少しの身の回り品と町で小さな家を借りるくらいの財産を隠し持ち、「先にいきますから、必ず来て下さいね。」と夫に言い残します。
父親は誰もいなくなった家屋敷で娘の名前を呼びながら金目の物を集め、残された馬車で売りに出かけます。
それからというもの、お金を稼げるという情報が入ると草刈りでも荷物の運搬でもなんでもやりました。お金が貯まると黒革ブーツの男に行き娘を返してくれるようにいいます。
しかし、お金をいくら渡してもブーツの男は娘を返してくれません。
一方金髪のAさんは、塔の中で父親が助けに来てくれるのを今か今かと待ち続けます。黒革ブーツの男は、Aさんを塔に案内しながらこう言ったのでした。
「今に父親が迎えに来てくれるから、この塔で待ちなさい。どうやら貴女の父親と母親に何か問題が起きたようだ。貴女をかくまう様に頼まれた。ここに隠れていれば命は安全だ。心配はいらない、話し相手と身の回りの世話は村の娘がみてくれる。あなたは信じて待てば良い。」
大切に育てられたAさんでしたが、不自由な隠れた暮らしでも父親が迎えに来てくれるのだと指折り数えて待ちました。
しかし、待てど暮らせど来ない父親に対して不安と不満を抱き始めます。
その頃父親は、働きづめで体を壊していました。
同じ酒場で働いていた女性が見かねて面倒 をみてくれたのですが、もう体はボロボロでした。金もなく体力も衰え、ついには革靴ブーツの男への連絡も取れなくなりました。腰は曲がり咳こむ父親の命はそう長くはなさそうです。
革靴ブーツの男は、父親の様子を知ると娘のAさんに伝えます。
「命の危険はなくなったよ。しかし貴女の両親は行方不明らしい。探すといい。」
Aさんは父親が迎えに来なかったことが残念でなりません。
「お父様は私を見捨てたのね。母と弟とどこかで幸せに暮らして、私のことなんて・・。絶対に迎えに来てくれると信じていたのに。いつか生まれ変わることがあったらお父様が何故迎えに来なかったのか、問いたださなくちゃ。何故見捨てたのかも。」
そう自分に、言い聞かせています。
その頃、病気の父親は『わたしはもうダメだ・・・』と貧弱なベットに横たわり、“娘にもう一度、お城に住まわせ贅沢をさせてやりたかった”と思いながら息を引き取りました。
最期を看取ったのは、身寄りのない酒場の女性でしたが、せいいっぱい尽くしてくれました。
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つづく