
あれは、いまから数十年も前のこと、まるで映画の中のような経験をしました。
毎日の仕事、家事、親戚付き合いも含め人間関係に疲れ切っていた私は、車を走らせ小高い丘の一画で車を止めました。
そして、運転席のシートを倒し目を閉じました。
「ああ、もう嫌だ。私が動くことで誰かが助かればと思って生きてきた。私は心も体もすり減らしている。もしかしたら今、誰も私のことを気遣ってくれるひとはいない。
もう、このまま気を失い、そして息も切れたらいい。そう、眠るように死んでしまえたらいい・・・もう、本当に疲れた。」
そのまま、息も深く長くなり脳波を意識するとα波からθ波に。
なんとも心穏やか。こうして人は死んでいくのかなあ・・。
気が遠のいていきました。
まもなく、遠くに音が聞こえました。
「ああ。救急車だ。そうか私もここで死んだ場合、発見されると救急車でどこかへ運ばれて・・・。え?そうしたら子供達はどうなる?そうだ、まだ死ぬことは出来ない・・」
その時でした。
リクライニングした運転席の足元と、そして肩の辺りに人の気配を感じました。
つづく